2009年11月05日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2649 ★ ホルテンさんのはじめての冒険

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2649号です。

いや急に寒い。

もう鍋しかありませんよなべ。
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今日は『ホルテンさんのはじめての冒険』です。

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■ 今日の映画
 ホルテンさんのはじめての冒険

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■ 今日の映画 − ホルテンさんのはじめての冒険

<1行コメント>
ノルウェー発ほんわかホルテンさんのおもしろい出会いのお話。


--cinema2525------------

 ホルテンさんのはじめての冒険

 O'Horten
 2007年,ノルウェー,90分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 ベント・ハーメル
脚本 ベント・ハーメル
撮影 ジョン・クリスティアン・ローゼンルンド
音楽 コーダ

キャスト ボード・オーヴェ
     ギタ・ナービュ
     ビョルン・フローバルグ
     エスペン・ションバルグ

<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 定年を間近に控えた生真面目な運転士のホルテンさん、いつも規
則正しい生活を送っていたが、退職前夜に送別会が行われて断りき
れずついて行き、ひょんなことからそのリズムが狂ってしまう。果
たしてホルテンさんは無事に定年を迎えることができるのか…
 『キッチン・ストーリー』のベント・ハーメル監督によるほのぼ
のとしたヒューマンドラマ


レビュー

 きっちりと毎日ルーティンを繰り返してきたホルテンさんが、定
年間近に不測の事態に襲われる。そこから彼を襲うカオス(という
ほどでもないが)が彼を変えていく。退職しても運転士の制服のま
ま過ごすホルテンさん、しかし偶然が彼にいろいろな小さな事件を
もたらす。

 少年との出会い、初めての遅刻、行き倒れた老人との出会い、そ
れらを通じてホルテンさんのただ生真面目なだけではない一面が出
て来るという感じの話。運転士を辞めてもほるてんさんは制服を着
続けるのだけれど、彼の真面目さの象徴たる制服も徐々にゆるんで
くるという感じで、最後には私服で運転席に便乗して、運転士時代
にいつも泊まっていたホテルを訪ねる。

 本当になんてことはないんだけれど、90分という時間は心地よい。
最初の本当に真っ白な雪景色から、最後のホルテンさんのすっきり
した笑顔まで幸福でも不幸でもないけれど、なんだかほっとするそ
んな感じがずっと続く。一つ一つの事件にはちょっとした不条理さ
があり、そこがこの監督の味というべきところだろう。だがその味
はそれほどきつくはなく、オーソドックスな料理にちょっと意外な
スパイスを加えたという感覚だろうか。

 だから「まあ見てよ」という感じの映画という以上に表現の仕様
がないのだが、この映画から見えてくるのは、人間いくつになって
も初めてのことに出会うのは素敵なことだってこと。運転士時代に
はルーティン通りの行動しかせず、会うのは同じ同僚と母親と後は
馴染みのホテルの女将くらいだったホルテンさんが、新たに自由な
時間を手に入れて様々なことや人に出会うことの素敵さ。

 運転士時代も彼の生活は不幸ではなかったけれど、どこかで冒険
を恐れているところがあったのかもしれない。それが定年によって
いやおうなく小さな冒険に借り出され、しかしそれが素敵な経験に
つながる。

 教訓というほどじゃないけれど、新しいことには新しい楽しみが
あるんだよってことをふんわりと教えてくれる作品だ。


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<今日のお勧め>

 ベント・ハーメルです

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2009年11月04日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2648 ★ ベンジャミン・バトン 数奇な人生

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2648号です。

えー、急に寒くなったり、なんだか疲れがたまっていたりという
ことで二日ほど休んでしまいましたが、やる気はなかなか回復し
ません。
でも頑張りますよ。

今日はようやく見た『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』です。

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 ベンジャミン・バトン 数奇な人生

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■ 今日の映画 − ベンジャミン・バトン 数奇な人生

<1行コメント>
デヴィッド・フィンチャーの職人芸が奇抜な物語を味わい深く。


--cinema2524------------

 ベンジャミン・バトン 数奇な人生

 The Curious Case of Benjamin Button
 2008年,アメリカ,167分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 デヴィッド・フィンチャー
原作 F・スコット・フィッツジェラルド
原案 エリック・ロス
   ロビン・スィコード
脚本 エリック・ロス
撮影 クラウディオ・ミランダ
音楽 アレクサンドラ・デスプラ

キャスト ブラッド・ピット
     ケイト・ブランシェット
     ティルダ・スウィンソン
     ジェイソン・フレミング
     エル・ファニング
     ジャレッド・ハリス

<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 1918年、ニューオリンズ、わが子の誕生の報を聞き、駆けつけた
父親は妻のしという現実を突きつけられる。さらに、赤ん坊を見て
ショックを受けた彼は赤ん坊を養老院の前に置き去りにする。その
赤ん坊を拾ったクイニーは老人の姿をした赤ん坊をベンジャミンと
名づけ大切に育て始める…
 フィッツジェラルドが1920年に著した短編をデヴィッド・フィン
チャーが映画化。


レビュー

 老人の姿で生まれ、段々若返ってゆく。外見ではそうだけれど中
身は普通に成長していく人間と同じ、そんな複雑な人生を送ること
になったベンジャミン・バトン。彼が養老院に捨てられたというの
は意図されたことなのか、偶然による僥倖なのかはわからないが、
とにかくそのことが彼には大きな幸運だった。老人の中で老人の姿
で育つ、老人たちには偏見もなく、ベンジャミンをむしろ普通に子
供として接してくれる。

 そして運命の女性デイジーともそこで出会う。同年代ながら、出
会ったとき、自分は老人で相手は子供、それでも2人は運命を感じ、
2人の人生は年齢と同じように交差する。

 そんな発想だけに支えられたと言ってもいい物語だが、そこには
人を引き込む力がある。それは、この物語が一貫して時間について
言外に語り、瞬間の大切さを語り続けるからだ。

 ベンジャミンとデイジーの年齢が一致する短い期間、その貴重さ
は人生そのものの貴重さを語る。しかしただそれだけではない。こ
の物語は同時にそのように「つりあった」人でなければ行きにくい
という世の中への疑問をも投げかけているように思える。

 ベンジャミンを筆頭にして、ここに登場する人の多くは虐げられ
たり、忘れられたりした人々だ。老人、黒人、ピグミー、船乗りも
そうだ。疎外感を抱えた人々がベンジャミンの人生を次々と通り過
ぎてゆく。ベンジャミンは彼らから受け取ったものを背負い、一瞬
の輝きを放つ。

 結末のつけ方も見事としか言いようがない。老人として生まれた
赤ん坊が、赤ん坊として老いて死ぬ。そのことを描くのにこれ以上
やり方があっただろうか? そして人生というものを語る上でこ
れ以上の表現があっただろうか? これを無理やりハッピーエンド
にしたり、物語をずらしてごまかして終わらせてしまわないその姿
勢が素晴らしい。

 映像表現としては、最後の赤ん坊になっていく部分の表現がちょっ
とどうかと思った。ベンジャミンは生まれたときはしわくちゃの赤
ん坊である。ということは、年老いたとき体の大きさとしては老人
のままで外見だけが赤ん坊に近づいていかないといけないはずだが、
実際はただの赤ん坊になってゆく、これだけCGを多用したのだか
ら、その部分ももっと工夫を凝らした表現が欲しかった(まあ、ど
うなればいいのかは想像もつかないが)。

 が、全体的にはCGは効果的に使われていてよかったように思う。
ブラッド・ピットが老人メイクから若返っていく姿もそれほど違和
感は感じない。背景や編集を使ってCGを目立たなく、映像に溶け
込むようにする工夫が随所に見られるのがいい。

 「面白い!」とか「すごい!」というよりは「うまいなぁ」とう
なりたくなるような、デヴィッド・フィンチャーの職人芸映画であ
ると思う。



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<今日のお勧め>

 デヴィッド・フィンチャーです

 『ゾディアック』
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2009年11月01日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2647 ★ わたし出すわ

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2647号です。

もう11月ですよ。あ、今日は映画の日ですね。
今年はなんか日曜日が多い気がしますが気のせいでしょうか?
まあ1000円で見れるってのはいいですね。

今日は昨日から公開されている『わたし出すわ』です。

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■ 今日の映画
 わたし出すわ

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■ 今日の映画 − わたし出すわ

<1行コメント>
お金から見えてくる人間の本質、いろいろな視点から見られる。


--cinema2523------------

 わたし出すわ

 2009年,日本,110分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 森田芳光
脚本 森田芳光
撮影 沖村志宏
音楽 大島ミチル

キャスト 小雪
     黒谷友香
     井坂俊哉
     山中崇
     小沢征悦
     小池栄子
     仲村トオル
     小山田サユリ
     ピエール瀧

<評価>

☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 民家の郵便ポストに1kgのゴールドバーが投げ込まれるというニュー
スが流れる中、山吹摩耶は東京から函館へと帰ってくる。市電に乗
り、その運転手で高校の同級生の道上に他の友達も集めて飲もうと
声をかける。そして摩耶は世界の市電をめぐるたびに出たいという
夢を持つ道上に「そのお金、わたし出してあげようか?」と言う…
 森田芳光がお金から見えてくるさまざまな人間関係を描いたユー
モラスなドラマ。


<レビュー>

 全体的に謎めいているが、結局のところ何なのかという感じが付
きまとう。東京から帰ってきた摩耶が同級生に次々と「お金を出す」
という。最初は世界の市電を見て回るのが夢という道上にその資金
を、そのほかには海外で手術を受ける費用や研究資金といったもの、
主婦のさくらは小型冷蔵庫を買ってくれるだけでいいという。

 お金に対するスタンスの取り方、これがこの映画のテーマという
ことになるだろう。道上の妻かえでのようにそのお金によって人生
が狂ってしまうこともあれば、必要なだけのお金をもらってそれを
100%生かすということもある。それはそれで人生について考えさせ
られる。一番面白かったのは小池栄子演じるさくらの夫(ピエール
瀧)が箱庭協会の会長になるための資金が欲しいというところ。他
の人にはまったく理解できないが、その本人にとっては非常に重要
なことのために必要なお金、それは人間の欲というものを考えさせ
る材料になりうる。

 ただしかし全体的に切迫感がないという感じがする。あくまでも
生活に余裕がある状態で、新たな選択のためとか、さまざまな可能
性のためにお金があったらどうなるかという問題に過ぎない。それ
はお金の一面ではあるけれど、お金というものを問題の中心にすえ
るなら、それが欲とつながらなくとも人間の生死を左右しうるとい
うことも描いてもよかったように思える。

 まあその辺りを物足りなく感じるというのはお金というモチーフ
に対する興味の持ち方の違いということになるので、映画の良し悪
しとは関係ないわけだけれど、私が森田芳光監督の作品にいつもど
こか物足りなさを感じるのは、その辺りの感覚の違いによるのだと
思う。

 もうひとつ、摩耶の母親の存在をどうとらえればいいのかという
のも難しいところだ。病院というよりは会議室のようなだだっ広い
部屋で機械につながれ一人寝かされている母親、意識不明なのか植
物人間状態なのかはわからないが語りかけても反応がない。そんな
母親に手厚い看護(というようにはあまり見えないがそういうこと
らしい)をする摩耶に仲村トオル演じるエージェントは謎めいた言
葉を残す。それは単に親孝行ということなのか、母親の存在が摩耶
の何らかの力の源泉になっているのか。(最初は、母親に予知能力
的なものがあり、それで摩耶がお金を儲けているのかと思ったが、
別にそういうわけではないようだ)

 というわけでよくわからない部分も多かったのだが、小池栄子と
ピエール瀧演じる夫婦の存在がなんだか心地よく、この映画全体も
いい印象になった。もしかしたらこの作品は見る人によってさまざ
まな視点がありうる作品なのかもしれない。この映画をどう見るか、
それは見る側に任されているということか。



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<今日の作品:わたし出すわ>

 『わたし出すわ』公式サイト
  http://watashi-dasuwa.com/


<今日のお勧め>

 森田芳光作品を

 『(ハル)』
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 『間宮兄弟』
  http://tinyurl.com/ycdxeuu

 『キッチン』
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 『それから』
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2009年10月31日

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2646号です。

沖縄から帰ってまいりました。
今回は台風の影響などもあり、やちむん(焼き物)なんてのも
見てきました。
私が気に入ったのは壹岐幸二という作家さんで、
こんなコブレット↓や
http://tinyurl.com/yf6wdv2
こんなお皿↓
http://tinyurl.com/yf66tdu
が素敵です。

女性にはこちら↓
http://tinyurl.com/yg9f9a8
多賀橋明美さんのものがよいかと。
かなり人気があるようで生産量も少ないので気に入ったのに出会っ
たら購入すべしということです。
このお皿はかわいかった
http://tinyurl.com/yzmum43

さて、今日はハロウィンのはずなので映画も『ハロウィン』です。
ハロウィンの夜は『ハロウィン』を見ましょう。
怖いです。
トリックオアトリートとか言って浮かれていられなくなります。

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■ 今日の映画 − ハロウィン

<1行コメント>
恐怖と無力感が見るものを無慈悲に襲う。まさにホラー映画の名作。


--cinema2522------------

 ハロウィン

 Halloween
 1978年,アメリカ,90分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 ジョン・カーペンター
脚本 ジョン・カーペンター
   デブラ・ヒル
撮影 ディーン・カンディ
音楽 ジョン・カーペンター

キャスト ドナルド・プレザンス
     ジェイミー・リー・カーティス
     ナンシー・キーズ
     チャールズ・サイファーズ
     トニー・モラン

<評価>

☆☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 1963年、ハロウィンの夜、少年マイケルは包丁で姉を惨殺する。
15年後の10月30日、マイケルは収容されていた精神病院から脱走、
彼を危険視する担当医が彼は生れ故郷の町に向かうと考え、そのあ
とを追うが、その町ではすでに高校生のローリイが怪しげな男の影
に気づいていた…
 鬼才ジョン・カーペンターがその名を全米に知らしめ、さらに
『13日の金曜日』『エルム街の悪夢』へと続く80年代の殺人鬼ブー
ムの火付け役となったホラー映画の名作。


レビュー

 この映画の斬新なところは、プロローグ的な場面でいきなり殺人
者の視点が使われることから始まる。マスクに縁取られて狭まった
視界から覗く少年の手がナイフを掴み、扉の影に身を潜めて姉のボー
イフレンドが家を出て行くのをやり過ごし、ゆっくりと姉の部屋に
向かう。そのようにして被害者の視線ではなく殺人者の視線から映
画を始めるところにこの映画の面白さがあり、80年代の“殺人鬼ブー
ム”につながる要素があった。

 それはつまり、この映画の主人公が殺人鬼“ブギーマン”である
ということだ。一般的なホラー映画というのは、見えない恐怖にお
びえる被害者が主役であり、観客はその被害者の立場に立ってその
恐怖を共有することで映画を楽しむ。そこでは殺人者は憎むべき敵
であり、主人公に対する影の存在であるはずだ。

 この『ハロウィン』はよく考えてみれば、被害者はブギーマンの
存在に気づいていない。観客はブギーマンがブギーマンとなった背
景も、彼が精神病院を抜け出して生れ故郷の町にやってきたことも
知っているわけだが、彼が狙いを定めた被害者たちは彼がいること
すら知らず、殺人事件が起こるだろうという予測すらつけようがな
い。ただローリイだけが怪しい車とそれに乗る男の影に気づいてい
るわけだが、彼女だってそれが殺人鬼で、自分を殺そうとしている
のだとはまったく気づいていないのだ。

 だからどうしても、この映画はブギーマンの視線から組み立て
れなければならない。にもかかわらず、観客がブギーマンの立場に
ひきつけられ、彼に感情移入しないのは、彼がまったくしゃべらず、
顔すらも存在しないキャラクターであるからだ。彼はマスクを被る
ことで自らの存在を放棄し、“ブギーマン”たるキャラクターへと
変貌する。そこで重要なのは、観客が感じる、彼から拒否されてい
るという感覚だ。無言、マスク、そしてドクターによって補足され
る彼の非人間性、それらが合わさって彼は完全に理解不可能な存在
になる。

 そこで観客は被害者とも殺人者とも、そしてドクターとも違う宙
ぶらりんな状態に置かれる。それを「神の視点」と呼ぶことも可能
だが、この映画に限ってはそれは神の視点でもなんでもない。なぜ
ならば、観客はすべてを見通せる位置にはいるが、まったく何も出
来ないからだ。すべてを見通せながら、手をこまねいてそれを見て
いるしかない。

 そこで感じる自分の無力さ、それこそが恐怖の最大の源泉なので
はないかと思うのだ。そしてその無力さは、音楽によってさらに強
く感じさせられる。ブギーマンが近づいているときに鳴る音楽、そ
れはBGMとして意識に上らないように使われているのではなく、
明らかにその音がなり始めたらブギーマンが来るということを意識
させようという意図で使われている。

 それによってわれわれが感じるのは、コントロールされていると
いう意識だ。観客は映画が進むにつれて、音楽を聞くだけで恐怖感
を感じるように条件付けられていく。それはまさにパブロフの犬の
状態で、そのようにして映画の言いなりになって恐怖感を感じさせ
られてしまう自分の無力を痛感せずにはいられないのだ。

 もちろん、「この無力感を感じさせられている」という感覚が表
面化しないというのもこの映画の巧妙なところである。この視点は
「一体何が怖かったのか」と問うてみて初めて見えてくる視点なの
だと思う。カーペンターはそのようにしてわれわれの心理を完全に
コントロールして、頭の中に恐怖を植えつけていくのだ。


!!!!!!!!ここから先はネタばれ!!!!!!!!

 後付で論理的な矛盾をあげつらうことは簡単だが、そのことと映
画を観ているときに感じる恐怖とはまったく何の関係もない。「ブ
ギーマンは死なない」という一言で、マイケルがブギーマンとなり、
不死身になっても、そこに沸き立つのは疑問ではなく、恐怖なのだ。
観終わった後もモヤモヤとした感じは残り、次なる殺人の予感にお
ののくしかないのだ。

!!!!!終わり



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2009年10月29日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2645 ★ 石油プラットフォーム

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2645号です。

今日はスイス人がアゼルバイジャンで撮った作品。

アゼルバイジャンといえばキャビアらしいですよ…
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スイスといったらチーズ?ラクレット!
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というわけで今日は『石油プラットフォーム』です。


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■ 今日の映画
 石油プラットフォーム

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■ 今日の映画 − 石油プラットフォーム

<1行コメント>
カスピ海に浮かぶ巨大プラットフォーム、そこから見えてくる21世紀の

課題


--cinema2526------------

 石油プラットフォーム

 La Cite du Petrole
 2009年,スイス,52分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 マルク・ヴォルフェンスバーガー
撮影 ジョン・ビョルグヴィンソン
音楽 イゴール・クブリロヴィッチ

キャスト ドキュメンタリー


<評価>

☆☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 カスピ海に浮かぶ巨大な石油プラットフォーム、ソ連時代の1949
年に作られ、今も稼動するこのプラットフォームは世界にあまり知
られてこなかった。ジャーナリストのマルク・ヴォルフェンスバー
ガーが外国メディアとしてはじめて許可を得て撮影を行った記録。
 9階建ての住宅などが健在の中、老朽化して崩れ落ちた端なども
多い。エネルギー、環境、技術、社会主義などさまざまなことを考
えさせてくれる作品。


レビュー

 この作品は60分未満と短いし、見終わって「これでもおわり?」
というあっけなさもある。それは残念なことではあるのだが、同時
に「もっと見たかった」という気持ちを持ったということも意味す
る。この映画に登場するのは広大なプラットフォームのほんの一部
だし、インタビューに答えている人もわずか5人、しかも心からの
本音を言っているようにも見えない。もっといろいろな場所が見た
いし、いろいろな人の話も聞きたい。それが見終わった瞬間の素直
な感想だ。

 そんな物足りなさは残るが、作品としては面白い。このプラット
フォームが建築されたころやフルシチョフが訪れた時に撮られたアー
カイブフィルムも織り交ぜられることで歴史的な部分もわかりやす
く提示されているし、それによってインタビューを受ける古株の人々
の話も理解しやすくなる。

 そしてこの古株の人々、特に指導員として建設当時からいるとい
う老婆の話なんかはすごく印象的だ。彼女はおそらく80近い年齢だ
ろうと思うのだが、その話し方は威圧的でいかにも社会主義国の模
範的な党員という感じだ。自分のやってきたことを正当化し、誇り
を持っていると主張する。しかしそのもはや時代遅れな言動の裏に
は空しさのようなものが隠されているようにも見えた。

 映画の後、監督の話があった。私は基本的に映画というのは映画
それだけで完結しているものだと考えているが、この話は面白かっ
たし、そこから見てくることもあったので、ちょっと紹介してみる。

 まず、この作品の短さの原因は素材の不足にあるということ。こ
の石油プラットフォームは未だ情報管理の対象であり、なかなか撮
影が許可されず、許可されても撮影に内務省の人が常についていた
ために人々の口が重かったのだという。そんな6日間の撮影からし
ばらくして今度は内務省抜きで撮影ができたのだが、それでも仕事
を失うことを恐れる人たちの口は重かった。

 口を開いてくれた人の一人で冒頭から登場する若い男は軍隊経験
が長く、怖気ずくことがなかったのだという。だから正直に何でも
話してくれて、彼のおかげで作品が救われたと。確かに彼抜きの作
品は考えられない。彼によってこの石油プラットフォームの概要が
わかり、抱える問題も明らかになっている。

 先ほどあげた指導員だった老婆や、別のガス分離装置を管理する
老婆は言うべきことを言っているという印象だ。本音ではなく体制
が望むような発言をしていると。ただ、指導員だった老婆は本当は
人生のすべてをささげたことに少しならず後悔している面もあると
いうことを監督は語っていた。それを作品に盛り込むことはできな
かったが、その気持ちは彼女の言外に表われていたと思う。

 そして彼が撮影を許可された最大の理由が「環境問題をテーマと
しないこと」だったという。アゼルバイジャン政府は原油の漏出な
どの環境問題に神経をとがらせていて、それをテーマに映画を作ら
れるのを嫌ったというわけだ。だからここには環境に関する記述は
ほとんどない。さびて朽ちてゆく橋脚が湖水にどんな影響を与える
のか、漏出した原油が生態系にどんな影響を与えるのか。それは語
りたくとも語れなかったのだ。

 それでもこの部分も、観客に考えさせるように映像的な工夫はさ
れている。朽ち落ちる橋脚、湖面に浮いた油膜、生物がほとんど見
られない風景、それらだけでも考えさせるには十分だ。

 アゼルバイジャン人でもほとんどの人が行ったこともないし、そ
の映像を見たこともないというこの石油プラットフォーム、ぜひもっ
ともっと撮影をして続編を作ってほしいものだと思う。




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<今日の作品:石油プラットフォーム>

 『石油プラットフォーム』
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<今日のお勧め>

 ちょいとお休みです。


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2009年10月28日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2644 ★ よく知りもしないくせに

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2644号です。

今日は韓国映画です。
毎日その国の名物グルメ紹介みたいになっていまして、ならば
今日はキムチ?
いえ、コチュジャンです。映画にも登場していて美味しそうで
した。ので、ドドン!と3kg
http://tinyurl.com/yfjnqaq
これさえあればたいがい韓国料理に!

というわけで今日は『よく知りもしないくせに』です。


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■ 今日の映画
 よく知りもしないくせに

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■ 今日の映画 − よく知りもしないくせに

<1行コメント>
浮遊感漂うがどこかリアルな人間ドラマ。しかしなんだか…


--cinema2525------------

 よく知りもしないくせに

 Jal Alijido Motamyunseo
 2009年,韓国,126分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 ホン・サンス
脚本 ホン・サンス
撮影 キム・ファグァン
音楽 チョン・ヨンジン

キャスト キム・デウ
     コ・ヒョンジョン
     オム・ジウォン
     コン・ヒョンジン

<評価>

☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 映画監督のク・ギョンナムは田舎で行われる映画祭に審査員とし
て参加する。そこで旧友のサンヨンに出会い、家を訪ねて妻を紹介
され翌朝別れるが、その直後「二度と顔も見たくない」という手紙
を受け取る。ギョンナムは誤解を解こうと出かけるが実らず、ソウ
ルに戻ることにする。
 女ったらしの映画監督を主人公にした浮遊感漂う不思議なドラマ。


レビュー

 これは男と女の物語だ。主人公の映画監督ク・ギョンナムはその
朴訥とした姿にもかかわらず何事にも情熱的な性格らしい。周囲も
なにやら腹に一物抱えてそうな人たちが集まり、パーティでは思わ
せぶりな会話がなされ、ホテルの部屋に戻って飲み直せば女の戦い
が始まり、先に寝るといった男はまんじりともしないで聞き耳を立
てる。

 そして何が起こったのかという決定的な部分は見せないで次々と
展開していくのだ。この時間と因果関係における空白がこの作品に
ふわふわした感じを与える。ストレートにスーッと時間が流れるの
ではなく、ギクシャクとあるいはふらふらとゆらめく。

 果たして何が起こったのか観客にすべてはわからない。ギョンナ
ムにもわからない。でも実際のところ世の中なんてそんなものだ。
人一人が知ることのできることなんてのは限られているし、わから
ないものはわからないままで人は人生を過ごす。しかし(一部の)
映画はそんなわれわれに全知の力を与える。だから映画は魅力的だ
という部分もあるのだが、そういう映画というのは現実的なリアリ
ティというものを追求することはしない(“リアルな”描写は徹底
的に追及するが)。

 この作品はそれとは逆にリアルというものを正面から見つめた作
品なのだともう。だから現実と同じようにわかりにくくちぐはぐで
時には退屈だ。まあそう書くと面白くなさそうだが、そのわかりに
くさやちぐはぐさの中からこの主人公の真の姿が見えてくるのだか
ら面白い。まあ、その結果見えた真の姿は大して面白いものでもな
いのだが…

 ともかくそんなリアルからいろいろと思ったりするのだ。

 たとえば、酒を飲むと語りだすシーンを見て、やはり韓国人には
ラテンの血が流れているなどとどうでもいいことを思う。彼らのバ
イタリティはすごいし、酒を飲んだらテンションはやたらと高い。
酒を飲んだら語りたがるというのもラテン的なものを感じさせる。
隣国でありながら日本と韓国はこうも違うのかと改めて思う。

 もちろん違っていいし、違うからこういう映画を見ても面白いの
だが、不思議なものだ。

 そんな発見というか想起がいろいろと起こる。見ている側もふわ
ふわとしているのかもしれない。




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<今日の作品:よく知りもしないくせに>

 『よく知りもしないくせに』
  http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=95


<今日のお勧め>

 ホン・サンス作品

 『気まぐれな唇』
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 『女は男の未来だ』
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 『浜辺の女』
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2009年10月27日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2643 ★ ベスト・オブ・タイムズ

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2643号です。

タイといったらタイカレーです。
ペーストがあれば簡単に作れます。これ↓なんて美味しそう
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あわせるのはジャスミンライス、
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思い切って5kg!
んーカレー

今日は『ベスト・オブ・タイムズ』です。
タイ映画ですよ。


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 ベスト・オブ・タイムズ

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■ 今日の映画 − ベスト・オブ・タイムズ

<1行コメント>
若者と熟年の2組の恋を通して見えてくる人と人とのつながり。


--cinema2524------------

 ベスト・オブ・タイムズ

 Kwamjum Sun. Tae Rak Chan Yao
 2009年,タイ,126分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 ヨンユット・トンコントーン
撮影 ソムブン・ポーティピタッククン
音楽 タートサック・ジャンパーン

キャスト アーラック・アモンスパシリ
     クリサナ・セートタムロン
     ヤーリンダー・ブンナーク
     サンサニー・ワッタナーヌクーン
     ジェームズ・アレクサンダー・マッキー

<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 獣医のゲンは同窓会で旧友のオームと久しぶりに会い、彼が離婚
したことを知る。その元妻ファーイは昔ゲンが想いを寄せていたが
告白できなかった相手だった。飲酒運転で社会奉仕を命じられたゲ
ンはパソコン教室の講師に、そこでジャムラットとソムピットの熟
年カップルに出会う。しかしソムピットは悩みを抱えていて…
 『アタック・ナンバーハーフ』のヨンユット・トンコントーン監
督が“男女の”恋愛を描いたラブストーリー。


レビュー

 好きな女の子(女の人)の前だとそっけない態度を取ってしまう
という男は意外と多い。このゲンもそんな一人でもう高校時代から
想いを寄せていたファーイと親しくなれそうなのにそっけないどこ
ろか不機嫌なような態度を取ってしまう。

 そしてさらにゲンはそれをファーイが元夫でゲンの友達でもある
オームにまだ未練があるからだと自己正当化しているように見える。
こうなるとなんだかもうじれったいというかいらだたしいというか
そんな感じになってしまう。まあそれが狙いというかそんな関係性
がどう変化していくのかという部分がこの物語の核になっていくと
いうわけだ。

 もうひとつのカップル、初老のジャムラットとソムピットのほう
は、当人の性格とか感情よりも周囲、特に家族との関係性が重要に
なってくる。当人同士が好き会っているのは若くても歳がいっても
変わらないが、周囲との関係は変わってくる。それは「年甲斐もな
く」とかいう批判に耐えるといったような問題ではなく、残りの人
生を生きる上でいろいろと考えなければならないことがあるという
ことだ。

 この映画が描いているのは人と人との間の見えない糸であるよう
に思う。簡単に断ち切られもするが、細いながらもずっとつながっ
ていることもある。その糸から逃れようとするのが若者なら、それ
を大事に手繰っていくのが大人なのかもしれない。この2つのプロッ
トにが絡み合いながら収束していくというよりは拡散していく物語
からはそんな意味が読み取れるように思える。

 そしてそういう深みのある物語であるにもかかわらず、そこにゆ
るさを持ち込んでいるのがまたいい。その際たるものは犬に描かれ
た眉毛名わけだが、犬に眉毛を描くというある意味ベタな笑いを最
後まで引きずり、どうやっても消えないという設定にもかかわらず、
どう見てもシーンによって形が違って書き直していることがバレバ
レ。普通に考えると「まずい」のだろうが、この映画ではそのゆる
さがなんともいい。同じようなゆるさをゲンの動物病院の助手も持っ
ている。

 このバランス感覚がこの監督が抜きん出ているところなのだろう。
ドラマツルギーというか語り口というかそれが魅力だ。



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 『ベスト・オブ・タイムズ』
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<今日のお勧め>

 タイです。

 『アタック・ナンバーハーフ 2 全員集合 !』
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 『アタック・ナンバーハーフ』
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 『the EYE (アイ)』
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2009年10月25日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2642 ★ エリックを探して

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2642号です。

今日はイギリス映画、ケン・ローチです。
そしてサッカー、そしてエリック・カントナ。
映画を見て飲みたくなるのはビール。
なんて楽天を見てたら、ポルトガルの安いビールを発見!
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このビールポルトガルで飲んだけど、普通にうまかったような…
試してみたい方はどうぞ。
1本158円です!

というわけで今日は『エリックを探して』です。
ケン・ローチの新作ですが、今のところ後悔のめどは立っていな
いということです。
これはいけると思うけどなぁ… 配給会社にお知り合いがいたら
勧めといてください。

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■ 今日の映画
 エリックを探して

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■ 今日の映画 − エリックを探して

<1行コメント>
エリックといえばカントナ、サッカーと人間への愛に触れた秀作コメ

ディ


--cinema2523------------

 エリックを探して

 Looking for Eric
 2009年,英=仏=白=伊=西,117分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラヴァティ
撮影 バリー・アクロイド
音楽 ジョージ・フェントン

キャスト スティーヴ・エヴェッツ
     エリック・カントナ
     ジョン・ヘンショウ
     ステファニー・ビショップ


<評価>

☆☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 郵便局員のエリックはこのところ元気がない。出て行った妻の二
人の連れ子を抱え、しかし30年前に分かれた最初の妻リリーのこと
を未だ忘れられない。心配した友人たちはいろいろと心配をし、そ
の一人ミートボールが「自分が尊敬する人」を思い浮かべて会話を
するという話をする。エリックは大ファンであるサッカー選手エリッ
ク・カントナを思い浮かべ、その後たびたびカントナが現れるよう
になる…
 イギリスの巨匠ケン・ローチが久しぶりに軽めの作品を撮った。
なんと名サッカー選手エリック・カントナが企画を持ちこんだとい
う。


レビュー

 そろそろ初老の域に差し掛かろうかという郵便局員のエリックは
出て行った妻の連れ子である十代の少年二人を抱え、上の息子はケ
チな盗みなどのチンピラじみたことをしている。エリック自身はと
いうと30年前に分かれた最初のつまりリーのことが今も引っかかり、
孫を介して関係ができているにもかかわらず会うことができない。

 そんなこんなでふさぎこんでしまったエリックを励ますため友人
たちが集まり、ミートボールが本から仕入れた「自分が尊敬する人
を思い浮かべて会話をする」という自己啓発的な試みをしてみる。
そこでエリックは大ファンのサッカー選手エリック・カントナを思
い浮かべる。

 後日、息子が隠しているマリファナを吸いながら、リリーのこと
を考えていると、エリック・カントナが彼の前に現れてエリックに
アドバイスをするのだ。

 そこからうじうじとしたおっさんが行動を開始するという痛快ス
トーリーが始まる。さすがにそれは… という展開ももちろんある
わけだが、そこは作り方のうまさというか観客を引き込んでぐいぐ
い引っ張っていくので笑って済ませてしまえたりする。ケン・ロー
チはこういう作品を撮ってもやはりうまいんだなと。

 基本的にはコメディだが、血のつながっていないはずのエリック
と息子の家族愛、エリックと友人たちとの友情、文字で書いてしま
うと鼻白いが、そんな“愛”も描かれていて笑いながら少々の感動
もできてしまう。

 そして、エリック・カントナが格好いい。カントナのファンでも
マンUのファンでもないけれど、この映画を見ればカントナのファ
ンになってしまう。現役時代はいろいろいわれたけれどスターって
のはやっぱりこうなんだなと。まあ、あくまでも“キング”として
のすばらしい部分ばかりを見せているわけだけれど、それでもいい。

 往年のサッカーファンはもちろん、イギリス映画好き、サッカー
好き、おっさん映画好き、どんな人でも楽しめるヒューマン・コメ
ディというところ。

 公開しないのかなぁこれ。東京国際映画祭でバイヤーがついたの
ならいいんだが…



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<今日の作品:エリックを探して>

 『エリックを探して』
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<今日のお勧め>

 ケン・ローチを

 『この自由な世界で』
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 『SWEET SIXTEEN』
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 『麦の穂をゆらす風』
  http://tinyurl.com/39thxc

 『ケン・ローチ 傑作選』
  http://tinyurl.com/luv377


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2009年10月24日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2641 ★ ロード、ムービー

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2641号です。

今日からしばし休暇です。
映画祭のおかげですでに時事ネタは皆無となっておりますが、
今後はさらにそうなるわけです。

いろいろ気になるモノでも紹介して行こうと思っていますが
今日、気になったのはこちら!
http://tinyurl.com/yhwrtpl
カキです、加熱用です。
しっかり火を通すなら実は生食用より加熱用のほうが美味しい
というのは最近では有名な話。牡蠣フライなどにするなら加熱
用がいいのです。

さて、今日の映画祭ネタは『ロード、ムービー』です。
日曜日にコンペの最優秀賞「サクラグランプリ」が発表されるん
ですが、私は「これじゃないかな…」とひそかに思っています。
果たしてどうかな?
詳細情報
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17
サクラグランプリ発表&上映
10/25 19:15 - 21:30

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■ 今日の映画
 ロード、ムービー

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■ 今日の映画 − ロード、ムービー

<1行コメント>
個が主張しそこに新しい何かが生まれる、これがインドらしさか?


--cinema2522------------

 ロード、ムービー

 Road, Movie
 2009年,インド=アメリカ,95分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 デーウ・ベネガル
撮影 ミシェル・アマチュー
音楽 マイケル・ブルック

キャスト アバイ・デオル
     サティーシュ・カウシク
     タニシュター・チャタルジー
     ムハンマド・ファイサル・ウスマーニー

<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 インドの田舎町に暮らすヴィシュヌは父親が営むヘアオイルのビ
ジネスが嫌いで、古くなったトラックを美術館に運ぶという叔父に
無理を言ってその仕事をやらせてもらうことにする。隠しておんぼ
ろトラックに乗ったヴィシュヌはまず一人の少年を、続いて太った
中年男を同乗させる羽目に…
 インドらしいどこか不思議なロードムービー。監督のデーウ・ベ
ネガルは寡作だが前2作は国際的にも評価されている。


<レビュー>

 父親の仕事を継ぐのがいやな若者というのはよくある話、しかも
その商売というのが変なにおいのする怪しげなヘアオイルではなお
さらのこと。そしてそんな若者が旅する生活にあこがれるものまた
自然なこと、それがどんなにおんぼろなトラックであっても父親と
オイルを売り続ける日々よりは幾分ましなはずだと。

 しかしこの青年ヴィシュヌは素直じゃない。何が不満なのか世間
と人を疎むような態度をとる。乗せてくれと言ってきた少年にも冷
淡で、故障を直してくれようというおっさんも胡散臭げに見つめる。
都会人の田舎に対する差別意識なのか、冒険をしているんだという
根拠のない自身から来る優越感なのか。とにかくいやな奴なのだ。
そのあたりがなかなか理解しがたい。

 しかしだからといって彼と道連れになる少年やおっさんのことな
ら理解できるかというとそういうわけでもない。彼らはあつかまし
いし、悪びれることもない。ヴィシュヌの車が移動映画館だとわかっ
たとにはそのあつかましさはさらにエスカレートする。まあそのあ
つかましさはみんなに映画を見せようといういいあつかましさなわ
けだけれど、それにしたって持ち主の意向はお構いなし。しかしヴィ
シュヌのほうもそれがおじの持ち物だということをいうことはせず、
盗んだのではないかという疑いを晴らそうともしないのは不思議な
不思議なところだ。

 旅は道連れ世は情けという考え方はインド人にはまったくないよ
うだ。彼らは道連れになりながら肝胆あい照らすことなく、しかし
衝突するときは派手に衝突しながら旅を続けるのだ。

 そして彼らはおっさんが「祭りをやっている」といっていた場所
についてはそこには何もない。しかし、そこに人が集まってくるシー
ンはなかなかいい。実はこのシーンは監督自身が経験した出来事そ
のものなのだという。何もない場所で映画の上映の準備始めたら何
の宣伝もしていないのにたくさんの人が集まってきたのだ。そして
その体験がこの映画の出発点になったらしい。

 だからこのシーンは素晴らしい。そして翌朝、すべてが夢であっ
たかのようにすっかり消え去ってしまっているというのも素晴らし
い。この朝のシーンは夢と現の狭間に漂う感覚を見事に描いたいい
シーンだと思った。

 こういう映画ってのは玄人受けするのではないかと思う。エスニ
シティもよく出ているし、昔のインド映画とハリウッド映画に対す
るリスペクトも感じられる。それでいて決して古臭くはなく、クリ
アな映像が雄弁に語る。ユーモアも盛り込まれ、ロマンスも盛り込
まれ、ほんの少しの社会性も持ち合わせている。

 一日本人としてはなかなか理解しがたい部分も多いが、「これか
ら」を感じさせるいい作品だ。




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<今日の作品:ロード、ムービー>

 『ロード、ムービー』
  http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17


<今日のお勧め>

 インドから

 『その名にちなんで』
  http://tinyurl.com/49gq4d

 『モンスーン・ウェディング
  http://tinyurl.com/5o33qf

 『たとえ明日が来なくても』
  http://tinyurl.com/yjj3ebl

 『スラムドッグ$ミリオネア』
  http://tinyurl.com/pucwol


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2009年10月23日

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2640 ★ 激情

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2640号です。

映画祭も日曜日で終わりですが、私のほうは一足早く金曜日で
見納め、もちろんその後も見た作品を垂れ流していくわけですが、
とりあえず映画漬けはひと段落です。

今日は『激情』です。
もう上映はありません。スミマセン
詳細情報
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■ 今日の映画
 激情

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■ 今日の映画 − 激情

<1行コメント>
虐げられる者の愛、演じる役者の迫力で見せる。


--cinema2522------------

 激情

 Rabia
 2009年,スペイン=コロンビア,95分

-----------------------

<キャスト&クルー>

監督 セバスチャン・コルデロ
脚本 セバスチャン・コルデロ
撮影 エンリケ・チェデイアク
音楽 ルシオ・ゴドイ

キャスト グスタボ・サンチェス・パラ
     マルチナ・ガルシア
     コンチャ・ベラスコ
     ハビエル・エロリアガ

<評価>

☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 大きな屋敷で家政婦をするローサは同じく移民労働者のホセ・マ
リアと恋仲になる。しかしホセ・マリアはローサを侮辱した男を殴
り、さらには彼をクビにした現場監督を殴った末に殺してしまう。
ホセ・マリアはローサの働く屋敷に忍び込み、ローサにも告げるこ
となくそこで息を潜めて生活をはじめる…
 貧しい移民の激しい純愛を描いた恋愛ドラマ。監督はエクアドル
人のセバスチャン・コルデロ。


<レビュー>

 運命の出会いで愛し合うようになった移民カップル、ホセ・マリ
アが殺人を犯してしまったことでふたりは引き裂かれる。しかし実
はホセ・マリアはローサが家政婦として働く屋敷の屋根裏に隠れて
いたという話。

 全体としては何かがおきそうで起きないという感じ、そもそも隠
れているホセ・マリアが見つかりそうで見つからないというプロッ
トが根底にあるので、そこから派生するさまざまな出来事もばれそ
うでばれない、何かが起きそうで起きないという感じになる。

 しかし、この感じはかなりすれすれというか、よく考えてみると
こんな行動をしていてばれないはずはないという行動も多いし、そ
れ以外にも納得できないところも多々ある。

 そして、そんなホセ・マリアの行動はどうも納得がいかないもの
だ。彼はローサを愛しているといい続けるが、どう考えても自分勝
手な男だ。自分は何もできないにもかかわらず一方的に電話をして
ローサを縛ろうとするわけだから。

 そんなだからローサがそのホセ・マリアを思い続けるというのも
今ひとつ納得がいかない。もちろんローサに見えている景色と観客
に見えている景色は違うわけだが、もしそれによって映画に入り込
めないのだとすれば演出上の失敗としか言いようがないのも事実だ。

 ただ、この移民を主人公としたエクアドル人監督による物語は、
虐げられた人々、見えない人々の悲劇を描いた作品だということは
言えるだろう。ローサが見えない存在であるということは、ローサ
が給仕をしている食卓で夫婦が「ローザには失望したわ」などとい
う会話をしているシーンに象徴的に表われる。

 そして、虐げられ続けてきたホセ・マリアは本格的に見えない存
在になる。しかしホセ・マリアは見えない存在になることによって
逆に行動の自由を得たようにも思える。移民が見えない存在である
というのは、ある枠にはめられてその枠内で行動してさえいれば目
に留まらない存在であるということだ。それは裏返せばその枠から
外れれば目立ち、虐げられるということである。

 結局彼は、虐げられるか無視されるかの二択しかない生活に耐え
られない彼は、自ら身を隠すしかなかったことはいえる。この世界
は彼には出口のない迷路のようなもので、ただひたすらに当てもな
くさ迷い歩くしかない場なのだ。それはこの世界で虐げられ無視さ
れている者みなに敷衍できることでもある。彼はある意味では虐げ
られし者の代表者であるのだ。だから彼はヒロインに愛され続ける。
そこにしか光明はないのだから。しかしその光明は彼を照らすだけ
で迷路から這い出すための道しるべにはなりえないのだ。

 そんなホセ・マリアを演じたグスタボ・サンチェス・パラの迫力
はすごかった。それでよくわからないけれどなんだか引っかかって
くる画になったのだと思う。



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posted by ヒビコレエイガ at 14:02| Comment(1) | TrackBack(0) | メルマガ(仮) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする